お客様からの問い合わせ文を翻訳に回そうとして、手が止まった夜がありました。文面にはメールアドレスと注文の事情が入っています。個人開発のサポート窓口では、よくある場面です。
Gemini アプリの「アクティビティ」を開いて、保存をオフにしようとしました。ところが、仕事用のアカウントで開いた画面では、思っていた選択肢が並んでいません。
最初にお伝えしたいのは、これは多くの場合、不具合でも操作ミスでもないということです。変更できる範囲を決めているのが、利用者ではなく管理者だからです。
私自身、画面が思いどおりにならないと、まず自分の操作を疑ってしまいます。けれどこの件では、疑う順番を変えたほうが早く片づきました。
症状の見分け方:どの「履歴」の話かを先に決めます
「Gemini の履歴が消せない」と言っても、Google の案内では置き場所が二つに分かれています。ここを取り違えると、設定を探す画面が最初から違ってしまいます。
| 見ているもの | どこで設定するか | 仕事用アカウントでの制御 |
|---|---|---|
| Gemini アプリ(gemini.google.com とモバイルアプリ)の会話 | 利用者の「設定とヘルプ」→「アクティビティ」 | Workspace 管理者が管理する、と案内されています |
| Gmail や Docs のサイドパネルにある Gemini(Gemini in Workspace)の会話 | 管理コンソールの「生成 AI」→「Gemini for Workspace」→「会話の履歴と削除」 | 管理者が削除の可否と自動削除の期間を決めます |
私が確かめたのは Google の公式ページの記述です。管理者向けのページには、サイドパネル側の履歴を扱うものだと明記され、アプリ側の履歴は別のページを見るよう案内されていました。
つまり、症状に当てはまるのは次のどちらかです。
- アクティビティの画面で、オフにする項目が出てこない、または押せません
- 会話の削除ボタンを押すと、「管理者が無効にしています」という趣旨の表示が出ます
後者は、サイドパネル側の設定で管理者が削除を止めているときに出る表示として案内されています。
原因を切り分ける順番:利用者、管理者、保全の三段
順番は、手元で確かめられる画面から、手元では見えない画面へと進めます。
一段目:利用者側の画面で、何が見えるかを書き留めます
gemini.google.com で、[設定とヘルプ] → [アクティビティ] を開きます。個人アカウントの案内では、上部のスイッチから [オフにする] と [オフにしてアクティビティを削除] を選べます。自動削除は、3 か月・18 か月・36 か月・自動削除しない、から選ぶ形です。
仕事用アカウントでこれらが出ない、あるいは選べないときは、画面の文言をそのまま書き留めてください。公式の案内にも「データ保持設定を変更できない、またはチャット保持期間を確認できない場合があります」とあります。つまり、変更できない状態は想定された動作なのです。
ここで覚えておきたいのは、オフにできた場合でも、会話は最長 72 時間アカウントに保存されると案内されている点です。「オフにした瞬間に何も残らない」わけではありません。
二段目:管理コンソールの設定は、管理者にしか見えません
利用者の側からは、ここは確かめられません。サイドパネル側の履歴については、管理コンソールで次の項目が決められると説明されています。
- 利用者が会話を削除できるかどうか(削除の可否そのもの)
- 自動削除の期間(90 日・540 日・1,080 日・自動削除しないのいずれかです)
- 組織部門とグループへの適用(グループの設定が優先されます)
同僚には削除できて自分にはできない、という状況が起きるのは、この適用単位が違うからかもしれません。
三段目:Vault の保全は、利用者の操作より強いのです
見落としやすいのがここです。2026 年 6 月の Workspace アップデートで、Vault が Gemini アプリの会話にも保持ルールと訴訟ホールドを設定できるようになりました。
発表の中で重要なのは、Vault の保持ルールとホールドが、管理コンソールの設定、利用者による削除、アクティビティ設定のどれよりも優先される、という点です。たとえ利用者が会話を消したり、アクティビティをオフにしたりしても、有効なホールドがあれば、データは利用者から見えなくなるだけで残り、Vault の管理者からは閲覧できます。
エンドユーザー向けの設定は用意されていない、とも書かれていました。対象は Web とモバイルの Gemini アプリで、Gmail の「Help me write」のような他アプリ内の機能は含まれません。
私が最初に誤解していたのは、ここでした。「消した」と「残っていない」は別のことです。Vault が有効な組織では、画面の上で消えたことは、保管が終わったことを意味しません。
直し方:画面ではなく、管理者に聞くことを三つに絞ります
利用者側でできる操作は限られます。変えられないものを変えようと粘るより、聞くべきことを短く持って管理者に渡すほうが、早く決着がつきます。次の三点をそのまま送れる形にしました。
件名: Gemini アプリのアクティビティ設定について確認です
お世話になっております。仕事用アカウントで Gemini アプリを使っています。
次の三点を教えていただけますでしょうか。
1. Gemini アプリのアクティビティ保存を、利用者側でオフにできない設定でしょうか。
2. 会話の自動削除の期間は、何か月に設定されていますか。
3. Vault の保持ルールまたはホールドは、Gemini アプリの会話にも適用されていますか。
顧客情報を含む文面を入力してよいかを、この回答で判断したいと考えております。三点目まで聞くのがコツです。一点目と二点目だけでは、「見えなくなったのに残っている」状態が判断材料から漏れてしまいます。
ひとりで事業をしていて、独自ドメインの Workspace を自分で契約している方の場合、管理者はご自身です。その場合は、管理コンソールの該当項目を自分で開いて、期間と削除の可否を確かめられます。
直らないときの次の一手:入力する内容の側で線を引きます
管理者の返答を待つあいだも、仕事は止まりません。この間は設定ではなく、入力する内容のほうで線を引くのが確実です。
私が決めているのは、次の二つです。
- 氏名・メールアドレス・注文番号を含む文面は、置き換えてから入力します
- 判断が付かない間は、Gemini に渡す文面を「書き方の相談」までに留めます
置き換えは手間に見えますが、問い合わせ文の骨格だけで翻訳の目的は足ります。固有の情報が必要なのは、最後に送る段階だけです。
一時チャットの扱いについては、別の記事で整理しました。金銭や健康の話を履歴に残さない使い分けも、あわせてご覧ください。ただし一時チャットが仕事用アカウントで使えるか、保存の扱いがどうなるかは、組織の設定次第で変わる可能性があります。管理者への一点目の確認と同じ形で、聞いておくと確実です。
過去のチャットを参照するメモリー側の消し方は、チャットを消しても前提が残る理由に書いてあります。
設定を変えられないなら、変えられる入力のほうを先に変えます。 この線引きだけは、管理者の返事が遅い週でも守るようにしています。
まずは、アクティビティの画面に出ている文言を一行だけ書き留めて、上の三点と一緒に管理者へ送ってみていただければと思います。