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API / SDK/2026-05-30上級

Gemini API の多段パイプラインに『残り時間予算』を伝播させる設計 — 4 秒 SLA を守りながら品質を段階的に落とす実装メモ

個人開発のヘルプ検索機能で多発した DEADLINE_EXCEEDED を、リクエスト単位の締め切り予算を埋め込み・検索・生成の各段に伝播させる設計で解消した記録です。残り時間に応じて maxOutputTokens を縮め、フォールバック予算を確保する実装を TypeScript でまとめています。

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ヘルプ検索機能をリリースして最初の週、私はログに並ぶ DEADLINE_EXCEEDED の数に頭を抱えていました。ユーザーがアプリ内で質問を打つと、入力の正規化 → 埋め込み生成 → ベクトル検索 → Gemini での回答生成、という 4 段のパイプラインが走ります。全体の体感目標は 4 秒。中央値は 1.6 秒で何の問題もないのに、上位 2% のリクエストだけが「全段の作業を捨てて」タイムアウトしていました。アーティスト・個人開発者の廣川政樹です。2014 年から続けている累計 5,000 万 DL の個人アプリ事業と、Dolice Labs の 6 サイト並行運用の両方で、同じ「最後の生成段で時間切れになる」問題を観測してきました。本稿は、リクエスト単位の締め切りを各段に伝播させる設計でこれを解消した実装メモです。

宮大工だった私の祖父は、刻みに入る前に必ず一日の段取りを紙に書いていました。どの部材にどれだけ時間をかけるか、先に決めておく。締め切り予算の伝播は、まさにあの「段取りを先に配る」作業をコードに落としたものだと、書きながら気づきました。

なぜ最後の生成段だけがいつも時間切れになるのか

多段パイプラインで各段が独立にタイムアウトを持っていると、前段の遅延が後段にしわ寄せされます。私のヘルプ検索では、埋め込み段と検索段がそれぞれ「最大 2 秒」のタイムアウトを持っていました。普段は両方とも 0.4 秒で終わるのに、ベクトル DB が温まっていない朝の最初の数リクエストでは検索段が 1.8 秒かかることがあります。すると生成段に残された時間は、4 秒の体感目標から逆算してわずか 1 秒台。Gemini の生成は出力トークン数に比例して伸びるため、長めの回答を返そうとした瞬間に API 側で締め切りを超え、DEADLINE_EXCEEDED で全部が無に帰すわけです。

問題の本質は、各段が「自分のローカルなタイムアウト」しか知らないことにあります。誰も「このリクエスト全体にあと何秒残っているか」を知らない。これは Gemini に限らず、複数の I/O を直列に重ねる構成すべてに共通する落とし穴です。

通常時 (p50)遅延時 (p95)ローカル上限
入力正規化0.05s0.1s0.5s
埋め込み生成0.35s0.9s2.0s
ベクトル検索0.4s1.8s2.0s
回答生成0.8s3.2s2.0s

この表のローカル上限を単純合計すると 6.5 秒です。4 秒の体感目標に対して、各段の上限が噛み合っていません。各段が「自分は 2 秒まで使ってよい」と思い込んでいるかぎり、上流が遅れた日には下流が必ず割を食います。

締め切りは「相対時間」ではなく「絶対時刻」で持ち回る

最初に私が間違えたのは、各段に「あなたは何ミリ秒使ってよい」という相対値を渡す設計でした。これだと、段と段の間のキューイングやマイクロな処理の積み重ねが予算に計上されず、合計が静かに膨らみます。正しいのは、リクエスト開始時に絶対時刻の締め切りを一つ決め、それを全段に持ち回ることです。各段は処理の直前に「今、締め切りまで何ミリ秒残っているか」を自分で計算します。

// deadline.ts — リクエスト全体で 1 つだけ生成する締め切りオブジェクト
export class Deadline {
  private readonly at: number; // 絶対時刻 (epoch ms)
 
  private constructor(at: number) {
    this.at = at;
  }
 
  /** リクエスト開始時に SLA から生成する */
  static fromNow(budgetMs: number): Deadline {
    return new Deadline(Date.now() + budgetMs);
  }
 
  /** 締め切りまでの残りミリ秒(負にはしない) */
  remaining(): number {
    return Math.max(0, this.at - Date.now());
  }
 
  /** この段に最低限必要な予算を満たせるか */
  hasBudgetFor(stageMinMs: number): boolean {
    return this.remaining() >= stageMinMs;
  }
 
  /** 各段の API 呼び出しに渡す AbortSignal を、残り予算から作る。
   *  reserveMs はフォールバック用に必ず手元に残す時間。 */
  signal(reserveMs = 0): AbortSignal {
    const ms = Math.max(0, this.remaining() - reserveMs);
    return AbortSignal.timeout(ms);
  }
}

ポイントは signal(reserveMs) です。Gemini の SDK は締め切りという概念を自分では伝播してくれないので、各呼び出しに AbortSignal を明示的に渡し、その時間幅を「残り予算からフォールバック予算を引いた値」にします。これが後述する「エラーではなく部分回答を返す」仕掛けの土台になります。

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この記事で得られること
絶対時刻の締め切りをパイプライン全段に持ち回る Deadline オブジェクトの最小実装(TypeScript・約50行)
残り予算から maxOutputTokens を逆算する式と、各段の最低保証予算を実測 p95 から決める手順
締め切り超過時でもエラーではなく部分回答を返すための『フォールバック予算』確保パターン(6 アプリ運用での実測値つき)
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