AI に文章を書かせる、という作業に対して、私は長らく中途半端な距離を取っていました。書いてもらえば速い。でも、出てくる文章はどこか「自分ではない誰か」の声で、自分のサイトに載せると違和感が出る。直すなら自分で書いた方が早い、という結論になりがちでした。
Gemini を使い始めてから、この問題に対する見方が変わりました。プロンプトの設計次第で、AI に「自分の文体」を覚えさせることが、想像以上にきちんとできるのです。完璧ではありませんが、80%程度は自分の声で書いてくれる状態を作れます。残りの20%を整えるのは、自分でやれば済む量です。
ここでは私が個人クリエイターとして実際にやっている文体学習プロンプトの設計と、AI クサさを避けるための調整、そして「学習させすぎたとき」に起きる予想外の問題までお話しします。
なぜ「文体を真似て」では不十分なのか
最初に試した素朴なやり方は、「私の過去の記事はこんな雰囲気です。これと同じ文体で書いてください」という頼み方でした。1記事だけ渡しても、3記事渡しても、出てくる文章は「丁寧な日本語」にはなりますが、私の文体ではありませんでした。
問題は、文体は単一のサンプルから抽出できるほど薄い情報ではない、という点にあります。私の文体には、語尾の選び方、段落の長さ、比喩の頻度、エピソードの入れ方、結論の置き方、たくさんの要素が絡み合っています。1記事ではそのうち1つか2つの傾向しか拾えません。
そこで私が行き着いたのが、3層のサンプル設計です。
3層のサンプル設計 — 「型・例・温度」を分けて渡す
私が Gemini に渡すサンプルは、3つのレイヤーに分けて構造化しています。
1層目は型です。「私の文章は、敬体(です/ます調)で、段落は3〜5文程度、各段落の最後の1文で前向きな見立てを置く」のように、構造を言語化したルールを渡します。これは AI が捕まえやすい情報で、最も効果が出るレイヤーです。
2層目は例です。実際に書いた段落を3〜5パラグラフ、ジャンルを変えて渡します。技術解説の段落、エッセイ的な段落、まとめの段落、というふうにジャンルを散らすのがコツです。1ジャンルだけ渡すと、AI はそのジャンルにロックされた文体に寄ります。
3層目は温度です。「この記事はやや軽めの読み物として」「この記事は技術ガイドとして読みごたえを出す」のように、書き分けたい温度感を毎回別途指定します。これを抜くと、AI は2層目の平均的な温度で書こうとします。
3層とも揃えて渡すと、Gemini は「型を守りながら、例の語彙感を借りて、指定された温度で書く」という三脚立ての出力を返してきます。私の体感では、ここが最大のジャンプです。
ネガティブプロンプトで「AI クサさ」を削る
ここまでで、文体の輪郭はかなり再現できます。しかし、ここで終わると「AI が書いた感」が抜けません。私が次に入れるのは、ネガティブプロンプトです。
具体的には、AI が無意識に出してしまう典型的な癖を、明示的に禁止します。
これらの癖は、Gemini が学習データから受け継いでいる「ブログっぽさ」のテンプレートです。明示的に禁止しないと、文体プロンプトに従いつつもこの癖が混ざってきて、結果として「丁寧だけれど顔が見えない文章」になります。
ネガティブプロンプトを入れた瞬間、出力は一段階「自分の声」に近づきます。私はこの効果を実感してから、文体プロンプトには必ずネガティブセクションを並列で入れています。
過学習問題 — 「自分のコピー」が出てくる罠
3層のサンプルとネガティブプロンプトで仕上げると、出力はかなり自分の声に近づきます。しかしここで別の問題が出てきます。
サンプルを増やしすぎると、Gemini は「サンプルにあった具体的なエピソード」を新しい記事にも流用してしまうのです。私の場合、「2014年からアプリ開発をしています」というフレーズが頻出記事になっていて、それをサンプルに入れていたら、新しい記事の最初で全部このフレーズから始まってしまいました。
これは過学習に近い現象です。AI はサンプルから「文体」を学ぶつもりが、「内容のテンプレート」まで学んでしまうのです。
私が取った対策は、サンプルから「自伝的フレーズ」を削ることでした。文体は文体、エピソードはエピソードと切り分け、文体だけを学ばせる。エピソードはその記事ごとに、私が個別にプロンプトで与えます。これでフレーズの過剰な再利用は止まりました。
「文体は守るが、構成は固定しない」という指示
もう1つ、私が後から追加した指示があります。「文体は守るが、構成は記事ごとに変えていい」です。
これを書かないと、Gemini はサンプルに含まれた構成を強く真似ようとします。「導入→3つの観点→おわりに」というサンプル構成が、すべての記事で再現されてしまうのです。読者から見ると、すべての記事が同じ骨で書かれているように映ります。
「構成は記事の内容に応じて最適化してよい」という1行を入れるだけで、出力の構成にバリエーションが戻ります。文体の一貫性と、構成の多様性は別軸で管理するべきだ、というのがこの体験から得た教訓です。
出力後の「自分の声に直す」最終工程
ここまでやっても、最後の20%は自分で直す必要があります。私の場合、最終工程は次の3つです。
1つ目、語尾のリズムを微調整します。Gemini は「〜です」「〜ます」を均等に使う傾向があるので、自分の癖に合わせて「〜でしょう」「〜のではないでしょうか」を散らします。
2つ目、比喩を1つだけ手動で足します。AI が出してくる比喩は、ありきたりなものが多いです。記事の中で1つだけでも、自分の経験から取った比喩を入れると、文章の「個人性」が大きく上がります。
3つ目、結びの1文を手で書き直します。本文は AI でいいのですが、最後の1文だけは、自分の言葉で読者に向けて書く。ここを AI に任せると、どうしても「定型のまとめ」になります。
この3工程は10分程度で済みますが、効果は劇的です。AI が書いた8割と、自分が書いた2割の組み合わせが、最も効率良く「自分の文体」を保つ運用だと、現時点では結論しています。
締めくくり — 今日できる最小の一歩
これだけで、出力から目立つ AI クサさの半分が消えます。残り半分は、3層のサンプル設計を1ヶ月かけて整えていけば、徐々に再現できるようになります。文体は1度の魔法では仕上がらないので、毎週少しずつプロンプトを育てていくのが、結果的に最短のルートです。