モバイルアプリの企画で一番時間が溶けるのは、実装ではなく「要件が固まる前の往復」です。画面構成を描いては直し、また描く。プロトタイプ段階のこのループが、そのままスケジュールを押していきます。
Gemini に情報設計を任せ、Figma に形にしてもらう。この分担にしてから、初期フェーズの手戻りが目に見えて減りました。実際のプロジェクトで踏んだ順番のまま、要件定義からユーザーテストまでを追いかけます。
要件定義フェーズ:Gemini による IA(情報設計)
ステップ 1:初期アイデアの構造化
まずは、頭にあるアイデアを Gemini に投げかけます。このとき、完全に完成した要件定義書である必要はありません。
入力例:
「オンライン食べログアプリを作りたいです。
コンセプト:グルメ情報シェア型アプリ
- ユーザーが訪問した飲食店の料理写真をアップロード
- 店舗情報(地図・営業時間・メニュー)を表示
- 他ユーザーの写真・レビューを閲覧
- 好きな店をお気に入り登録
- フォロー機能で、友人の投稿を購読
ターゲット:20~40代の食べ歩き好きな層
まだ具体化していない部分も多いですが、
このアプリの全体像を、機能単位で整理してもらえますか?」
ステップ 2:ユースケース分析
Gemini の出力をベースに、主要なユースケースを列挙してもらいます。
Gemini への続きの質問:
「上記のアプリで、以下のペルソナが操作する
主要なユースケースを5つ挙げてください。
各ケースについて、関連する画面を列挙してください。
ペルソナ A:新しい飲食店を発見したい人
ペルソナ B:自分の美食体験をシェアしたい人
ペルソナ C:友人の食事体験を追跡したい人」
この過程で、アプリに必要な画面数・機能の優先度が自動的に明確化されます。
ステップ 3:画面遷移図の自動生成
Gemini に、テキストベースの画面遷移図を生成してもらいます。
依頼内容:
「以上のユースケースを踏まえて、
このアプリの画面遷移図をテキスト形式で表現してください。
各画面のメイン機能と、遷移先を明記してください。」
Gemini の出力例:
1. タブバーナビゲーション(底部の4つのタブ)
- タブ1:フィード(友人の投稿一覧)
- タブ2:検索(店舗検索)
- タブ3:投稿作成(写真アップロード)
- タブ4:プロフィール(自分の情報)
2. フィード画面
- 画像 + 店舗名 + レーティング + ユーザー名
- タップで店舗詳細へ
3. 店舗詳細画面
- 大きな画像スライダー
- 基本情報(営業時間・住所・電話)
- タブ:メニュー / レビュー / 地図
- ボタン:お気に入り登録 / 電話 / 地図開く
4. 検索画面
- テキスト検索 + フィルター(ジャンル・距離)
- 検索結果リスト
5. 投稿作成画面
- カメラ / ギャラリーから選択
- タグ付け(店舗名・ジャンル)
- テキスト入力(コメント)
- 公開設定
6. プロフィール画面
- ユーザー情報
- 投稿一覧(グリッド表示)
- フォロー / フォロワー数
この出力を、Figma で詳細化する際の、非常に正確な参考資料として活用できます。
Figma でのプロトタイプ構築
ステップ 1:デバイスフレームの設定
Figma を開き、まずモバイルデバイスのフレームを作成します。
推奨設定:
- iPhone 15 / 15 Pro(390×844px):最新標準サイズ
- 複数デバイス対応なら、別フレームで 411×915px(Android)も並行
ステップ 2:ローフィデリティのワイヤーフレーム化
グレースケールで、Gemini が提案した画面を線画化します。
この段階での作業内容:
- ナビゲーション構造の配置確認
- テキスト・画像領域の仮配置
- ボタン・入力フィールドの位置決め
色・詳細デザインはまだ不要。レイアウトの論理性を確認することが目的です。
ステップ 3:ハイフィデリティへの格上げ
Gemini に色・タイポグラフィの提案をもらい、デザインシステムを構築します。
Gemini への依頼:
「グルメアプリのデザインシステムを定義してください。
- プライマリカラー:1色(アクション・重要な要素)
- セカンダリカラー:1~2色(補助情報)
- ニュートラル:グレースケール(背景・テキスト)
- アクセント:1~2色(警告・成功状態)
また、タイポグラフィスケール(見出し・本文・キャプション)も提案してください。
このアプリは、食べ物の美しさを引き立てる点が肝心です。」
得られた提案を Figma の Variables / Colors で設定し、全画面に適用していきます。
ステップ 4:コンポーネント化
Figma のコンポーネント機能を活用し、再利用可能な UI 部品を定義します。
モバイルアプリで頻出のコンポーネント:
- Button(primary / secondary / ghost バリエーション)
- TextField / TextArea
- Card(店舗 card / ユーザー card / 投稿 card)
- TabBar
- Modal / BottomSheet
- Rating Star
- Tag
これらを一度定義すれば、複数画面での使用時に一括更新が可能になります。
ステップ 5:インタラクティブプロトタイプの構築
Figma Prototyping を活用し、実際の操作フローを可視化します。
主要な Prototype 設定:
タブナビゲーション:
- タブをクリック → 対応する画面に遷移
- アニメーション:Smart Animate で自然な移動を表現
検索フロー:
- 検索フィールド入力 → キーボード表示
- 検索ボタン → 結果画面へ遷移
店舗詳細からのアクション:
- 「電話」ボタン → 通話画面(or 確認モーダル)
- 「地図」ボタン → 地図アプリへのリンク(外部リンク)
- 「お気に入り」ボタン → ハート icon の色変更(On/Off 状態)
Figma Prototyping の高度な活用:
- Smart Animate:画面遷移時に、同じレイヤー(例:ユーザー avatar)を滑らかにアニメーション
- Overlay:キーボード・メニュー・モーダルを、背景を暗くして重ねる
- Scroll:長いリストを、フレーム内でスクロール可能に設定
これにより、単なる画面デザイン集ではなく、実際の操作感を再現したプロトタイプ が完成します。
情報設計(IA)の詳細化
ナビゲーション構造の最適化
初期案のタブバーナビゲーション(4 タブ)が本当に最適か、Gemini と検討します。
質問例:
「このアプリで、ボトムタブバーに4つのタブがあります:
フィード / 検索 / 投稿 / プロフィール
ユーザーの行動フローを考えると、
どのタブへのアクセス頻度が高いと予想しますか?
また、タブの順序を変更すべきでしょうか?」
ユーザー心理を考慮した、より直感的なナビゲーション設計が得られます。
画面遷移の矛盾検出
複数画面を Figma で設計していると、矛盾が生じることがあります。
「店舗詳細画面から、投稿作成画面へ直接遷移できるか?」「フィード画面でユーザー名をタップしたら、そのユーザーのプロフィールへ遷移すべきか?」
これらを Gemini に相談すれば、ユーザー体験を損なわない、論理的な遷移フローが構築できます。
ユーザーテスト用プロトタイプの準備
Figma Share リンクの生成
Figma のプロトタイプは、リンク共有で、デザイナー以外も閲覧・操作できます。
設定手順:
- 「Share」ボタン → 「Copy link」
- リンクをテスターに配信
- テスターは、ブラウザだけで、プロトタイプを操作可能
テスト用シナリオの作成
ユーザーテストを有効にするため、Gemini に実タスクシナリオを生成してもらいます。
依頼例:
「このグルメアプリのユーザーテストを行います。
テスターは、実際のユースケースに基づいたタスクを実行します。
以下の3つのペルソナ別に、テストシナリオを3~4タスク作成してください。
各タスクは、明確だが、操作方法は指示しないレベルで。
ペルソナ A:新しい飲食店を探しているグルメ好き
ペルソナ B:自分の食べ歩き体験をシェアしたい人
ペルソナ C:友人が行った飲食店を確認したい人」
出力例(ペルソナ A):
タスク 1:「イタリアンレストランを、近所から探してください」
タスク 2:「見つけたレストランの詳細情報を確認し、営業時間を確認してください」
タスク 3:「そのレストランを、お気に入りに追加してください」
このシナリオをもとにテストを実施することで、直感性や情報の発見しやすさといった、定性的なフィードバックが得られます。
フィードバック収集と改善ループ
ユーザーテストから得られるデータ
テスト実施時に、以下のデータを記録します。
- 所要時間:各タスク完了までの時間
- 操作ミス:期待と異なるボタンをクリックした回数
- コメント:テスター本人の感想・困った点
Gemini による改善提案
フィードバックを Gemini に提示し、改善案を得ます。
例:
「ユーザーテストの結果、多くのテスターが
『検索フィルター』の位置に気づきませんでした。
現在、フィルターボタンは検索フィールド横に配置していますが、
より発見しやすい配置を3案提案してください。」
改善案を受け取ったら、Figma で新バージョンを作成し、再度テストを実施。このループを 2~3 回繰り返すことで、洗練されたプロトタイプが完成します。
実装チームへの引き継ぎ
Figma Handoff の活用
Figma Dev Mode で、実装に必要な情報(サイズ・距離・色コード・フォント)を自動抽出できます。
出力される情報の活用:
- iOS / Android の実装チームに、統一された仕様を配信
- デザイントークン(色・フォント・スペーシング)を自動生成し、CSS / Swift コードに変換
Prototype の仕様書としての活用
構築したインタラクティブプロトタイプ自体が、実装チームへの「仕様書」となります。
「ユーザーがこのボタンをタップしたときの遷移」「このモーダルのアニメーション」といった、動的な仕様が、実装チームに正確に伝わります。
ベストプラクティス
1. 早期かつ頻繁なテスト
完璧なプロトタイプを一度に作るのではなく、ローフィデリティの段階から、早期にテストを実施しましょう。修正が容易です。
2. Gemini との対話記録
Gemini との対話内容(なぜこのナビゲーション構造か、どうして4タブか)を、Figma の「Comments」や別ドキュメントに記録しておくと、後々の意思決定に役立ちます。
3. プロトタイプの版管理
Figma の Branch / Version 機能を活用し、テスト前後の版を管理。比較検討が容易になります。
実装例:フィットネスアプリのエンドツーエンドフロー
Phase 1:Gemini での IA 設計(1~2 時間)
要件整理 → ユースケース分析 → 画面遷移図生成
Phase 2:Figma でのプロトタイプ構築(1~2 日)
ワイヤーフレーム → ハイフィデリティ → インタラクティブ設定
Phase 3:ユーザーテスト(1 日)
5~10 名のテスター実施 → フィードバック収集
Phase 4:改善と再テスト(1~2 日)
Gemini による改善提案 → Figma で修正 → 簡易テスト
Phase 5:実装チームへの引き継ぎ(0.5 日)
Dev Mode で仕様抽出 → デザイントークン生成
総所要時間:約 1 週間(従来は 3~4 週間)
まとめ
Gemini × Figma を活用したモバイルアプリプロトタイプ開発は、以下の大きな利点があります。
- 速度:要件定義から実装引き継ぎまで、1 週間程度で実現
- 品質:AI と人間のバランスが取れた、ユーザー中心のデザイン
- 透明性:Gemini との対話記録が、意思決定の根拠となる
プロダクト開発に携わるなら、このワークフローの習熟は、競争優位性へと直結します。ぜひ、次のプロジェクトから試してみてください。