アーティスト・個人アプリ開発者の廣川政樹です。Gemini Lab を運営しています。
ここ1ヶ月ほど、Gemini との付き合い方をひとつ変えてみました。大事な決断をする前に「反対意見だけ言ってください。賛成は要りません」と、わざわざ頼むようにしたのです。
これがちょっと、自分でも驚くくらい効きました。今日はそのことについて、ハウツーではなく「個人開発者の意思決定が、AI を入れることでどう変わってきたのか」という角度で書いてみます。技術的な深い話ではなく、毎日アプリを作って暮らしている人間のささやかな観察として読んでいただけたら嬉しいです。
なぜ普通の Gemini は「反対意見」を出してくれないのか
率直に言うと、Gemini は基本的に「いいですね」と言ってくれる相棒です。これは Gemini が悪いのではなく、対話アシスタントとして自然に振る舞うとそうなる、というだけの話です。
たとえば「アプリの新機能として通知を毎日送る設計にしようと思います」と相談すると、ほとんどの場合「良いアイデアですね。実装する場合は〜」という前向きな返答が返ってきます。間違っているわけではありません。でも、私が本当に聞きたかったのは「この決断、どこに穴があるか」だったりします。
個人開発というのは、最終的に判断するのが自分しかいない仕事です。社内レビューも、上司のリジェクトもありません。だからこそ、判断の前に意図的に反対側の声を聞くステップが必要なのだと、最近強く感じるようになりました。
私が使っている「反対意見プロンプト」の中身
具体的には、こんな頼み方をしています。
いまから私が出す案について、賛成意見は一切要りません。考えうる反対意見・懸念点・失敗シナリオだけを挙げてください。私が見落としていそうなものを優先してください。
ポイントは3つあります。
ひとつ目は、「賛成は要らない」と明言することです。これを言わないと、Gemini は無意識に両論併記をしようとします。プロンプトの中で禁じ手を作っておくと、出力の質が変わります。
ふたつ目は、「私が見落としていそうなもの」と頼むことです。一般論の反対意見ではなく、私の前提の中にある盲点を狙ってもらうイメージです。たとえば「個人開発」「広告収益依存」「日本語ユーザーが中心」といった私の文脈を Gemini はある程度知っているので、その文脈に固有の反論を出してくれます。
みっつ目は、ふたりに頼むことです。私は同じプロンプトを Gemini 2.5 Pro と 3.1 Pro の両方に投げて、出てくる反対意見の重なりと差分を見ます。両方が指摘したものは「本当に弱い場所」、片方だけが指摘したものは「視点として残す価値があるかもしれない」と切り分けます。
1ヶ月で実際に救われた3つの判断
派手な話ではありませんが、この1ヶ月で「反対意見モード」が私の判断を変えた場面が確かにいくつかありました。
ケース1: 新機能のリリース判断
ある癒し系アプリで、「コミュニティ機能を追加しよう」と考えていました。ユーザーから要望もあったし、エンゲージメントが伸びそうな気がしていたのです。
反対意見プロンプトに投げると、こんな指摘が返ってきました。
「癒しを目的に来ているユーザーに対して、他人の投稿を見せるのは『癒し体験』を阻害する可能性があります。コミュニティ機能はエンゲージメントと引き換えに、アプリの本来の価値を薄めるリスクがあります」
これは私が完全に見落としていた視点でした。要望を出してくれるユーザーは熱量が高い人たちで、サイレントマジョリティの体験は別物かもしれません。結果として、コミュニティ機能ではなく、ひとりで使う「日記モード」を先に作ることにしました。
ケース2: 価格改定のタイミング
サブスクリプションの値上げを検討していました。コスト構造的に必要だったのです。
反対意見プロンプトの返答は、率直でした。「このタイミングは、ユーザーが『AI 機能拡充への期待』を持っている時期です。値上げと同時に、何が増えたかを明示しないと、単なる値上げと受け取られて離脱が増えます」。
それで、値上げ自体は実行しましたが、AI 機能のアップデートを同時にリリースし、リリースノートで「この値上げで、こういうことができるようになりました」と書きました。離脱率は想定より低く済みました。
ケース3: ブログ記事の方針
正直に言うと、Gemini Lab の記事の質を上げる方向性を迷っていました。「もっと長く、網羅的に書くべきか」「短くても刺さる記事に絞るか」。
反対意見プロンプトはこう言いました。「網羅的な記事は AI が量産する時代になりつつあります。網羅性で勝とうとすると、Gemini や Claude が10倍速く書けるので消耗戦になります。むしろ、あなたが個人開発者として実際に経験したことの解像度を上げるほうが、コンテンツとしての防御力が高いです」。
これも、ぼんやりとは感じていたけれど、言語化できていなかったことでした。それ以来、記事を書く前に「この記事には、私の実体験から来る固有の解像度があるか」を自問するようになりました。
反対意見モードを使ってはいけない場面もある
ここまで書いておいて何ですが、このモードを使ってはいけない場面もあります。
ひとつは、朝イチや疲れているときです。反対意見だけを浴びると、判断が止まります。私はやる気が出ない朝にこれを試して、その日一日まったく前に進めなかったことがあります。AI からの反論は、自分の心が安定しているときに聞くものです。
ふたつ目は、まだ仮説が固まっていないときです。アイデアが芽の段階で反対意見を浴びせると、芽そのものが折れます。最初は「どう転がるか分からない」段階を残しておいて、ある程度の輪郭が見えてから反対意見モードに切り替えるのが、私の場合うまくいきます。
みっつ目は、人と話すべきときです。共同開発者がいる場合や、家族・パートナーに関わる決断は、AI に頼る前に人間に話す方が結果的に早いし正確です。AI は便利すぎて、私たちは時々それを忘れます。
「反対意見だけ言って」が、結局何を変えたのか
1ヶ月使ってみて、何が変わったかを言葉にすると、こんな感じです。
私は以前、Gemini を作業を加速させるためのツールだと思っていました。コードを書く速度、調べ物の速度、文章を整える速度。でも、反対意見モードを使うようになってから、Gemini を判断の質を上げるためのツールとしても見るようになりました。
これは個人開発者にとって、思った以上に大きな変化です。一人で全部決めなければいけない立場の人にとって、「自分以外の視点を、自分の責任で取り入れられる仕組み」を持っているかどうかは、長期的なクオリティに直結します。
もちろん、Gemini が言う反対意見が常に正しいわけではありません。むしろ、半分くらいは「うーん、それはこの文脈には当てはまらないな」と私は判断します。でも、自分の中で反論を吟味するプロセスを通った決断は、最初からひとりで決めた決断より明らかに強くなります。
今日からできる小さな一歩
もしこの記事を読んで「ちょっと試してみようかな」と思ってくださった方がいたら、いきなり大きな決断に使わなくても大丈夫です。
たとえば、今晩読み終わる前に、最近自分が決めた小さなこと——「このブログのタイトル案でいこう」「この機能を次に作ろう」「このサブスクに入ろう」——を、Gemini に「反対意見だけ言ってください」と投げてみてください。
おそらく、自分が思っていたより穴があることに気づきます。そして同じくらいの確率で、「やっぱりこれでいい」と確信できるはずです。どちらでも、決断は前より少し強くなっています。
私は来月もこの使い方を続けるつもりです。何か新しい発見があったら、また書きます。
それまで、どうぞ良い1ヶ月を。
このテーマをもう少し体系的に学びたい方には、書籍 シンキング・トラップ——「自分の頭で考える」を、もう一段深くするために(D・カーネマン 著) や、Gemini のプロンプト設計をもっと深掘りしたGeminiのための RSFC 構造化プロンプト完全ガイド も合わせて読むと、自分なりの「反論プロンプト」を組み立てやすくなります。